今年も定番の写真集が発売された。

今年のタイトルは「東京ゼンリツセンガン」←

アラーキーがゼンリツセンガンだなんて、
出来すぎたギャクみたいだが ←不謹慎でスミマセン
ご本人はそんなものもろともせず、相変わらずお元気そうで一安心。


ここ数年ワイズ出版から毎年出される写真集は
かつての「包茎亭日乗」のようなスタイルをとっている。


いわゆる写真日記である。


たまに「空」や「エローマ」のようにテーマらしきものがある場合もあるのだが、
それが空であっても、場所がローマであっても
荒木の視線は常に日常であることに変わりはない。

荒木経惟のコアなファンなら
このような日々の写真日記も面白いと思うだろうが、
そろそろこういう写真集をだらだらと出し続けるのはどうかと思う。



荒木の写真集で最も好きなもののひとつは
原色の街」だ。



吉行淳之介の「原色の街」へのオマージュ。
大阪という土地での完全なる非日常世界。
写真というかたちをした私小説である。

7月の大阪
あのむんとした夏の空気
くらくらするような熱気
毒々しいまでの原色の街と人
暗闇にうごめく男と女
愛欲の世界


写真集はまるで官能小説のごとく
いやおうなしに読者を非日常の別世界へと引きずり込む。



写真集は赤いドレスを着たひとりの女性の登場によって
それまでとは違う色を見せ始める。


決して若くも美しくもない女性。
人妻の「K」


アラーキーは彼女に恋をする。


その途端
彼女がとても愛らしく見えてくるのだ。

ページが進むにつれて彼女はどんどん魅力的な主人公へと変貌する。




8月
再会した彼女は


美しかった


アラーキーの瞳に写る彼女は美しいのだ。


ラストで
ホテルの部屋の窓辺に立ち
荒木に向かって微笑む彼女は
本当に美しかった。



おもむろに荒木の視線は
彼女から窓の向こうの川へ


そして彼女がいなくなったホテルの窓辺には
ランプだけが浮かび上がる。


やがて空が原色の街を茜色に染め

この物語は静かに終わる。




見終った後の
濃密な小説か映画を観たような充足感。

言葉以上に雄弁な写真たちが
言葉にならない無数の感情をぶつけてくる。

こんな写真集はなかなかない。




こういう風な
ただ撮っているだけではない
荒木の明確な意志の見える
本当の写真集がみたいな。